【請負契約と雇用契約】

建設関係の会社でのことです。
社長一人では仕事はできませんから、当然、他の人が関わります。
人を雇うという形ではなく外注や業務委託の形でした。
業務委託の人との間で問題が起こりました。
便宜上Aさんとします。

社長の話では、ある会社から下請けをした仕事を、Aさんに業務委託しました。
当初の契約では、社議長が請け負ってきた金額とは関係なく月額33万円という口約束でした。
Aさんは自分で時間や日を決めて仕事をしていました。
業務の進行状況などは時折報告があるのみで社長はAさんに任せきりでした。
請負の金額が当初は月額33万円以上ありましたが、この不況ですから、だんだん少なくなりました。
請負の金額が月額33万円を下回る月が続きました。
社長は、Aさんに仕事を依頼するほど赤字です。

そこで、業務委託の金額を見直すことになりました。
定額の月額33万円ではなく請負金額の5%を社長の手数料として差し引き、残りの95%をAさんに支払うという形で口約束ですが合意しました。
業務委託の額を見直してから2ヶ月後、Aさんの方から仕事をやめることを伝えてきましたし、社長の方も請負の仕事がなくなりそうだったので承諾しました。

Aさんに業務委託の代金を支払えば終わりだったのすが、Aさんから意外なメールが送られてきました。
Aさんからのメールの内容は『月額33万円の給与が途中から勝手に減額されています。労働基準監督署に相談しました。差額の支払いをお願いします。また、最後の月の給与がまだ振り込まれていません。早く振り込んで下さい。』です。

トラブルの原因は、社長とAさんとの認識の大きな違いです。
社長の言い分とAさんの言い分のどちらが正しいかを確かめるものはなにもありません。
口約束だからです。
請負契約だったのか、雇用契約だったのか、減額を合意していたのか、一方的なものだったのか。

社長がAさんに話し合いを求めても、Aさんは拒否します。
「約束どおりの金額を払って下さい。」との一点張りのメールだけが送られてきます。
社長からの電話にも出ません。
業務請負だったとしても支払いの約束の日が迫ってきます。
業務請負であろうと雇用契約であろうと支払日と決めた日に、社長は支払わなければなりません。

業務請負であろうと雇用契約であろうと、決められた日に支払わないことは、後々不利にはなりますから社長は焦ります。
かといって、社長が計算した額では14万9千円ですから、33万円という額はAさんからの一方的なものでしかありませんから、33万円は振り込めません。
14万9千円を振り込んでも、Aさんからは社長が一方的に減額したものです。
支払わなければ、それはそれで後々の災いの種になりますし、支払ったら支払ったで、これも後々の災いの種となります。

社長とAさんの間で子どもの喧嘩のようなメールのやり取りが続きます。
社長は、Aさんに「金額が合意できないうちは振り込むことができません。とにかく、話し合いましょう。」とメールをしました。
Aさんからは「あなたが思っている金額を振り込んで下さい。」とメールが送られてきます。

支払日となって日が過ぎてしまいました。
この時点では社長は、14万9千円も33万円も振込みませんでした。
支払日から3日後、Aさんから「14万9千円を振り込んで下さい。」というメールがあり、社長は即14万9千円を振り込みました。
とりあえずは、これで収まっています。

Aさんと話し合いの場を持てないままですから、多少なりとも災いの種は残ります。
ただ、社長の方が有利です。
それは、社長は、話し合うことをAさんに求めました。
口約束だったこと、社長自身が契約書を交わしていないので、社長の主張を押し通そうとはせず、譲歩する姿勢を見せていました。
話し合いを拒んだのはAさんです。
社長は、Aさんには話し合いには、いつでも応じることを伝えています。

トラブルを完全に防ぐことはできませんが、トラブルの発生を最小限にし、トラブルが起こったときに悪化させないようにすることはできます。

トラブル事例